永遠の夏休み

フィリピン・ルソン島には、スペイン統治時代からつくられた古い鉄道があります。

首都マニラを中心に、北部サンフェルナンドへ向かう”北線”と、

南部ビコール地方のレガスピまで伸びた”南線”です。

”北線”はすでに廃線になっていますが、”南線”はまだ健在。

ウォン・カーウェイ監督の1990年作品、『欲望の翼』はオレのもっとも好きな映画のひとつで、

タイトルバックに流れる映像は、フィリピン鉄道から見た朝もやの中の風景なんです。




※Days of Being Wild 阿飛正傳(Japanese Trailer)


『”脚のない鳥”がいるそうだ。

飛び続けて疲れたら、風の中で眠り、一生に一度だけ地上に降りる。』


”脚のない鳥”が地上に降りるとき…、それは死ぬとき。

生きている間は楽しくても苦しくても翼を広げて飛び続けなければいけない。


主人公のヨディは、その生い立ちと運命に自暴自棄になり、

ギャングと大立ち回りをして、列車に飛び乗って逃げて行く…。


この映画に出て来た、”朝もやの中のヤシの木が生い茂る風景”に魅せられ、

当時20代だったオレは、実際にフィリピン鉄道に乗ってみようと旅立ったのでした。

劇中の”大立ち回り”の舞台が、

とても立派な駅舎のフィリピン鉄道南線の始発駅だったパコ駅。

残念ながら今は老朽化が進み取り壊されてしまい、新駅舎ができているようですが、

オレが行ったときには、隣の”パサイロード駅”が仮の始発駅になっていました。

ビコール地方というのは、太平洋上で発生した台風が頻繁に直撃する地域。

ガイドブックにも、南線がいつ運休になるのか、

また普通に走ってるのかさえ行ってみないとわからない、的なことが書いてあったと思う。

熱帯の暑さがただでさえ鉄路を”ぐにゃぐにゃ”にしてしまうところを

台風がさらに”ぐちゃぐちゃ”にしちゃうから、確かに”行ってみないとわからない”のでしょう。

こんなこともあるからなのか、かの有名番組『世界の車窓から』でも取り上げられてないようですね。

ま、それでもオレが行ったときは、途中でソフトな”脱線事故”があったものの、

幸運にも終点の”レガスピ”まで行くことができました。

”朝もやの風景”を見るためだから、”夜に出て、朝に着く”便で行かなければならないんで、

”予告編”に出てるようなすごい断崖絶壁の鉄橋やらなんやらの景勝は見ることなかったのですが、

朝早くに寝ぼけて列車の継ぎ目にふと出たとき、映画とまったく同じ風景に出会えました。


時計がひとまわり半するくらいの時間をかけて到着したレガスピは、ホントにただの田舎町。

このレガスピで1泊し、”温泉”がある北の”ティウィ”へ向かったのですが、

その向かう車中からみた海の景色は、今まで見た景色の中で最高のものでした。

これがオレの”永遠の夏休み”、あの頃のあの景色、一生忘れない。



※当時のオレ、

”写真を撮るとその瞬間の感動が薄れる”からっつって、写真をまったく撮ってないんです。